タ ビ ノ ト モ ？ − 雲母世界クリノ より

十歳になった日、あたしは生まれ育ったふるさとの坑洞をあとにした。

何を持っていこう？

クリノメーターに、ハンマー、タガネ。
地層のうねりをたよりに行先を知るあたしたちにとって、これだけは絶対の必需品。
褶曲の走行傾斜がわからなくちゃ、いっぽも先に進めない。

じいちゃんの形見のスピナレット。
替えのボビンには炭素繊維のワイヤを何マイルか。
蜘蛛の糸より細いけど、竪坑を昇る時、これがあたしの命綱になる。

炸薬をすこしだけ。
発破をかけなきゃ先へ進めないところもあるだろう。
湿気ちゃわないように、しっかりと封をして。

モホ面までだって掘り抜けるコア採取機もあるけど、こんな重いもの、あたしにはとてもかつげない。
採泥器も置いてくことにした。

あとはルーペ付きの万能ナイフをポケットに入れて、あたしの旅は始まった。
じいちゃんがいつも言ってた、はるかな“チジョウ”をめざして……。

97/05/17 「CGネットワーカーズ自選作品集」第5集のテーマ競作「旅の伴」のために描きおろした作品です。 ホントは連作の絵物語にするつもりだったのですが、当時重度の五月病に襲われて、〆切日までに一枚しか描けなかったというナサケナイ過去があります。 (C) Goma